【過払い金】証券会社の不正による仮想取引も投資者保護基金は保証するべきか?

着手金
被告
原告

主文

原判決のうち上告人らに関する部分を破棄する。
前項の部分につき,本件を札幌高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人村松弘康ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
1 原審が確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,証券取引法(以下「法」という。)79条の56の規定による一般顧客に対する支払その他の業務を行うことにより投資者の保護を図り,もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的とする投資者保護基金(以下「基金」という。)である(法79条の21)。
証券会社(政令で定める証券会社を除く。)は,いずれか一の基金にその会員として加入しなければならないこととされている(法79条の27第1項)。
基金は,会員である証券会社について,破産の申立てがされたなどの通知を受け,法79条の54の規定に基づき顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難であるとの認定をした場合,認定を受けた証券会社(以下「認定証券会社」という。)の一般顧客の請求に基づいて,法79条の55第1項の規定により公告した日において現に当該一般顧客が当該認定証券会社に対して有する債権(当該一般顧客の顧客資産に係るものに限る。)であって基金が政令で定めるところにより当該認定証券会社による円滑な弁済が困難であると認めるもの(以下「補償対象債権」という。)につき,一定の金額の支払を行うものとされている(法79条の56第1項)。
ここに,「顧客資産」とは,証券業に係る取引(有価証券店頭デリバティブ取引その他の政令で定める取引を除く。)に関し,一般顧客の計算に属する金銭又は証券会社が一般顧客から預託を受けた金銭等をいう(法79の20第3項1号から4号まで)。
A証券株式会社は,被上告人の会員であった。
(2) A証券は,平成11年11月23日から,B株式会社,C株式会社及びD株式会社を発行会社とする各社債(以下,「本件各社債」といい,上記各発行会社を「本件各社債発行会社」という。)の募集を開始した。
本件各社債の払込期日は同年12月31日とされていた。
(3) 上告人X を除く上告人ら及びE(以下「本件各社債取引者ら」という。)1は,平成11年11月23日から同年12月31日までの間に,A証券に対し,本件各社債の引受けの申込みをし,Eは2000万円を,その余の本件各社債取引者らは原判決別紙請求債権目録の請求金額欄記載の各金員をそれぞれ払い込んで,預託していた(以下,これらの金員を「本件預託金」という。)。
平成12年1月下旬ころ,本件各社債取引者らに対し,本件各社債発行会社名義の預り証が交付された。
Eは,同年2月8日に死亡した。
上告人X は,Eの妻であり,Eの遺言により1同人の有するすべての財産を相続した。
(4) 平成12年3月6日,A証券について,金融機関等の更生手続の特例等に関する法律に基づき,東京地方裁判所に対して破産の申立てがされた。
被上告人は,A証券について,破産の申立てがされた旨の通知を受け,同月16日,法79条の54の規定に基づき,顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行が困難であるとの認定をした。
東京地方裁判所は,同月21日,A証券につき破産宣告をした。
被上告人は,同日,法79条の55第1項の規定に基づく公告をした。
2 本件は,上告人らが,法79条の56第1項の規定に基づき,被上告人に対し,原判決別紙請求債権目録の請求金額欄記載の各金員及び遅延損害金の支払を求める事案である。上告人らは,次のとおり主張した。
(1) 本件各社債発行会社は,法人としての活動をしておらず,本件各社債の募集についても取締役会の決議をしていない。
このことに加えて,いずれの会社の代表取締役も本件各社債の募集等について全く関与しなかったこと,本件各社債の払込期日が経過しても,本件預託金がA証券から本件各社債発行会社へ移動していないこと,本件各社債発行会社名義の預り証等はA証券の従業員が作成したものであることなどを考慮すると,本件各社債発行会社とA証券との間の本件各社債募集取扱契約は不成立又は無効であり,本件預託金は,本件各社債発行会社の計算に属する金銭ではなく,法79条の20第3項2号所定の「証券会社が一般顧客から預託を受けた金銭」に当たる。
(2) 法79条の20第3項2号は「証券業に係る取引」と規定しているにすぎず,実体のない不成立又は無効な契約を除外するとの文言はないこと,被上告人は,投資者の保護を図り,もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的としていること,A証券と本件各社債取引者らとの間の本件各社債に関する取引(以下「本件各社債取引」という。)は事実として存在することなどからすると,本件各社債取引は,私法上有効であるか無効であるかを問わず,広く同号所定の「証券業に係る取引」(以下,単に「証券業に係る取引」という。)に当たると解すべきである。
(3) 上告人らは,法79条の55第1項の規定により公告がされた日(平成12年3月21日)において,A証券に対して本件預託金の返還請求権を有しており,同請求権は補償対象債権に当たる。
3 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人らの請求を棄却すべきものとした。
(1) 上告人らは,本件各社債発行会社とA証券との間の本件各社債募集取扱契約は実体がなく不成立又は無効であるなどと主張するが,本件各社債がそのような実体のない不成立又は無効な契約により募集されたものであるとすれば,本件各社債取引は,証券業に係る取引に当たるということはできない。
(2) また,上告人らは,本件各社債取引が事実として存在することなどから,本件各社債取引が私法上有効であるか無効であるかを問わず,証券業に係る取引に当たると主張するが,本件各社債取引が上告人らが主張するような実体のないものであれば,それは証券取引の形態を仮装したにすぎないものというべきであるから,証券業に係る取引に当たるということはできない。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。
その理由は,次のとおりである。
(1) 本件各社債取引は,飽くまでA証券と本件各社債取引者らとの間の取引であり,本件各社債取引者らが関与しない本件各社債発行会社とA証券との間の本件各社債募集取扱契約とは別個の取引であるから,同契約が不成立又は無効であったとしても,そのことから当然に本件各社債取引が証券業に係る取引の該当性を有しないことにはならないというべきである。
(2) また,前記のとおり,基金は,会員である証券会社が顧客資産の返還に係る債務の円滑な履行をすることが困難であるとの認定をした場合に,認定証券会社の一般顧客の請求に基づいて,一般顧客が認定証券会社に対して有する顧客資産に係る債権であって認定証券会社による円滑な弁済が困難であると認められるもの(補償対象債権)につき一定の金額を支払う等の業務を行うことにより投資者の保護を図り,もって証券取引に対する信頼性を維持することを目的として設けられたものである。
したがって,認定証券会社が一般顧客から預託を受けた金銭であっても,顧客資産,すなわち証券業に係る取引に関して預託を受けた金銭に係る債権でなければ補償対象債権には当たらない(法79条の20第3項2号,79条の56)が,補償対象債権の支払によって投資者の保護,ひいては証券取引に対する信頼性の維持を図るという,基金が設けられた趣旨等にかんがみると,証券業に係る取引には,証券会社が,証券業に係る取引の実体を有しないのに,同取引のように仮装して行った取引も含まれると解するのが相当である。
もっとも,上記趣旨等からして,当該証券会社と取引をする者が,取引の際,上記仮装の事実を知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるときには,当該取引は証券業に係る取引の該当性が否定されるものというべきである。
これを本件についてみると,前記確定事実によれば,本件各社債取引者らは,A証券がした本件各社債の募集に応じて,A証券に対し,本件各社債の引受けの申込みをし,本件預託金を払い込んだものであり,本件各社債取引は,証券会社とその顧客との間における社債取引として行われたものであるということができる。
そうすると,本件各社債取引がA証券によって証券業に係る取引のように仮装されたものであるとしても,本件各社債取引者らが,本件各社債取引の際,そのことを知っていたか,あるいは,知らなかったことにつき重大な過失があるという事情がない限り,本件各社債取引は証券業に係る取引に当たると解すべきである。
5 以上によれば,前記理由付けをもって本件各社債取引が証券業に係る取引に当たらないとした原審の前記判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決のうち上告人らに関する部分は破棄を免れない。
そして,上告人らが補償対象債権を有するか否か等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

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